視野を広げる簡単セルフケア
パソコンやスマートフォンを見続けた後、人と長く話した後、 騒がしい場所から帰った後。このような感覚はありませんか?
目が疲れたときは、目を閉じる、温める、遠くを見るといった方法が よく知られています。もちろん、それらも大切なケアです。
しかし、目の疲れには、目そのものの負担だけでなく、 何かを見逃さないようにする 「注意の集中」が関係していることもあります。
今回は、音と視野を同時に使い、一点に集まりすぎた注意を やさしく広げる簡単なセルフケアをご紹介します。
聞き取ろうとすると、目にも力が入る?
私たちは会話を耳だけで聞いているわけではありません。
声が聞き取りにくいときは、相手の口元や表情、身振りなど、 目から入る情報も使って言葉を理解しています。
周囲が騒がしい場所では、必要な声を聞き分けながら、 相手の顔も見続けなければなりません。 そのため、聞き取りにくさがある人ほど、 無意識に視線を一点へ固定しやすくなります。
すると、まばたきが減る、目の奥に力が入る、顔が前へ出る、 首や肩が緊張するなど、目と身体の負担につながることがあります。
▶︎ 耳が聞こえにくいと目も疲れる? 難聴と眼精疲労の意外な関係
目と耳の注意はつながっている
音がした方向へ、自然に顔や目を向けた経験は 誰にでもあると思います。
これは、視覚と聴覚が完全に別々に働いているのではなく、 脳の中で空間的な情報を共有しているからです。
私たちは普段から、
- どこから音が聞こえたか
- その方向に何があるか
- 自分からどのくらい離れているか
- こちらへ近づいているか、遠ざかっているか
といった情報を、目と耳の両方から受け取っています。
さらに、足裏や関節から得られる身体感覚、 頭の動きや傾きを感じる前庭感覚も加わり、 脳が「自分がどこにいて、周囲がどうなっているか」をまとめています。
音を使って「一点集中」をゆるめる
スマートフォンの文字を読むときや、 相手の声を聞き逃さないようにするときは、 必要な情報へ注意を絞っています。
集中そのものは悪いことではありません。 問題は、その状態が長く続き、 周囲の景色や音、身体の感覚が入りにくくなることです。
視覚と聴覚を薄く広く使い、集中し続けていた状態から、 周囲の空間を受け取れる状態へ戻していくワークです。
ワーク前に現在の状態を確認
まず、安定した椅子に楽に座ります。 足裏は床につけておきましょう。
顔を正面に向け、目の前にある一点を自然に見てください。
このとき、次の点を確認します。
- 目の奥に力が入っていないか
- 視野が正面だけに狭まっていないか
- 顎、首、肩に力が入っていないか
- 呼吸を止めていないか
- 周囲の音がどのくらい聞こえているか
良い状態へ変えようとしなくても大丈夫です。 今の自分がどのように見て、聞いているかを確認するだけにします。
音と視野を広げる簡単セルフケア
椅子に座り、足裏が床に触れている感覚を確認します。 背筋を無理に伸ばす必要はありません。 お尻を椅子へ、足裏を床へ預けるようにします。
肩や顎に力が入っていることに気づいたら、少しだけゆるめます。 呼吸も意図的に深くせず、自然に続けましょう。
正面にある一点へ目を向けます。 ただし、文字を読んだり、輪郭をはっきり捉えたりする必要はありません。 「その辺りをぼんやり眺める」くらいの見方にします。
一点を凝視するのではなく、 その周りにも景色があることを感じてください。
顔と目は正面へ向けたまま、視界の左右へ意識を広げます。 正面を見ながら、右側と左側にも空間があることを感じます。
次に、視界の上と下にも意識を向けます。 見えているものの名前や色を正確に答える必要はありません。 視界の端にも何かが存在していることを感じるだけで十分です。
視野を広げたまま、自分の近くにある音へ意識を向けます。 エアコン、時計、服が擦れる音、自分の呼吸など、 どのような音でも構いません。
音の正体を当てたり、はっきり聞き取ったりしようとせず、 「ここにも音がある」と気づきます。
次に、部屋の外や建物の外など、 少し離れた場所から聞こえる音を探します。
車、風、人の声、鳥の声など、 聞こえてくる音を追いかけずに受け取ります。
- 近くの音
- 遠くの音
- 右側・左側から聞こえる音
- 正面や後ろに感じる音
一つの音へ集中するのではなく、 複数の音が同じ空間に存在していることを感じてみましょう。
最後に、周辺の景色と周囲の音を同時に受け取ります。
- 視界の左右にも景色がある
- 身体の周りにも音がある
- 足裏が床に触れている
- 身体が椅子に支えられている
- 呼吸が自然に続いている
すべてを鮮明に捉える必要はありません。 一つに強く集中するのではなく、 複数の感覚を「薄く、広く」使うイメージです。
ワーク後の変化を確認する
ワークを終えたら、もう一度正面を見ます。 始める前と比べてみましょう。
- 視界が少し広く感じるか
- 目の奥の力が抜けたか
- まばたきが自然に出るか
- 首や肩の緊張が変わったか
- 呼吸がしやすくなったか
- 周囲の音を頑張らずに受け取れるか
変化は大きくなくても構いません。
「少し明るく感じる」「正面以外も見えやすい」 「肩が下がった」「音の方向を感じやすい」など、 現れ方には個人差があります。 何も変わらない日があっても問題ありません。
どのようなときに行うとよい?
このセルフケアは、次のような場面で取り入れてみてください。
- 人と長く話した後
- 騒がしい場所から帰った後
- パソコンやスマートフォンを長時間見た後
- 目の奥や首・肩に力が入っているとき
- 一つのことに集中しすぎたと感じたとき
- 視野が狭くなっているように感じるとき
1回30秒〜2分程度で十分です。
長く行うよりも、 「今、一点に集中しすぎているかもしれない」と気づいたときに、 短時間行う方が日常へ取り入れやすいでしょう。
めまいや聞こえにくさがある方へ
前庭障害や強いめまいがある方は、 目を閉じたり、頭を大きく動かしたり、動く映像を見たりせず、 転倒の心配がない場所で座って行いましょう。
また、次のような症状がある場合は、 セルフケアより先に医療機関への相談が必要です。
- 片耳が突然聞こえにくくなった
- 急な耳鳴りや耳の詰まりが現れた
- 強い回転性めまいがある
- 物が二重に見える
- ろれつが回らない
- 手足のしびれや脱力がある
- 今までにない強い頭痛がある
突然の聞こえにくさや耳の異常は、 早めに耳鼻咽喉科を受診してください。
頑張って見聞きする状態から、受け取る状態へ
目を休ませるというと、目を閉じる、温める、 遠くを見るといった方法が思い浮かびます。
しかし、目が疲れているときに必要なのは、 目だけを止めることではなく、 一点に集まりすぎた注意を、 音や身体を使って周囲へ戻すことかもしれません。
目・耳・身体は、別々に働いているわけではありません。 周囲の景色や音、自分の身体の位置を脳がまとめることで、 私たちは安心して空間の中にいられます。
頑張って見よう、聞こうとするだけでなく、 すでに入ってきている情報をやさしく受け取ること。
まずは1〜2分、自分の周囲にある景色と音へ 意識を広げてみてください。
ミエルラボでは、視力の数値や目の動きだけでなく、 音への反応、視野、姿勢、呼吸、前庭感覚なども確認しながら、 その方に合った感覚の使い方を一緒に探しています。
参考文献
- Santangelo V, Spence C. “Is the exogenous orienting of spatial attention truly automatic? Evidence from unimodal and multisensory studies.” Consciousness and Cognition. 2008. PubMed
- Spence C. “Multisensory feature integration in (and out) of the focus of spatial attention.” Attention, Perception, & Psychophysics. 2020. PubMed
- Zuanazzi A, Noppeney U. “The Intricate Interplay of Spatial Attention and Expectation: a Multisensory Perspective.” Multisensory Research. 2020. PubMed
- Driver J, Spence C. “Cross-modal links in spatial attention.” Philosophical Transactions of the Royal Society B. 1998. PubMed
