「考えすぎて、頭が休まらない」
「同じことを何度も考えてしまう」
「考えれば考えるほど、答えが分からなくなる」
そんなとき、私たちはつい 「頭の中をどうにかしよう」 と考えます。
でも実は、思考が固まっているときには、 身体も一緒に固まっている ことが少なくありません。
脳は、呼吸・心拍・筋緊張など 身体から送られてくる情報を常に受け取っています。
身体の緊張がゆるむことで脳へ入る情報や生理的な状態が変わり、 一つの考えに固定されず、 別の可能性にも気づきやすい状態 へ移行する可能性があります。
つまり「身体を緩める」とは、 頭を空っぽにすることではなく、 思考に余白をつくる一つの方法 と考えることができます。
「考えすぎ」は、頭の中だけで起きているわけではない
ストレスや不安を感じているとき、 身体をよく観察してみると、 さまざまな変化が起きています。
肩が上がる。
顎を噛みしめる。
呼吸が浅くなる。
背中が丸まり、身体が固まる。
こうした身体反応は、 単に「考えすぎた結果」として起こっているだけではありません。
脳から身体へ指令が出る一方で、 身体からも絶えず情報が脳へ送られています。
脳は、身体の状態を常にチェックしている
心拍、呼吸、胃腸の状態など、 身体の内部で起きている変化を感じ取る仕組みを 「内受容感覚(interoception)」 と呼びます。
身体内部から送られてきた情報は、 島皮質や帯状皮質などを含む脳のネットワークで処理され、 感情・注意・意思決定などとも関係しています。 [1]
私たちは「頭で考えてから身体が反応する」だけではありません。 身体の状態そのものも、 脳が現在の自分や周囲の状況を判断する材料になっています。
言い換えれば、 身体は脳にとって大きなセンサーの一つ なのです。
ストレスが強くなると、思考は「狭く」なりやすい
人間には、危険やストレスへ素早く対応するための仕組みがあります。
何か問題が起こったときに、 「危険はどこにある?」 「今すぐ何をすればいい?」 と注意を集中させること自体は、 生きていくために必要な能力です。
しかし、強いストレス状態では、 物事を整理する、情報を一時的に保持する、 注意を切り替えるといった働きに重要な 前頭前野の機能が影響を受けます。 [2]
急性ストレスに関するメタ解析でも、 ワーキングメモリや 認知的柔軟性が低下する傾向が報告されています。 [3]
「こうしなければならない」
「これしかない」
「やっぱりダメかもしれない」
そんな考えから抜け出せなくなるのは、 単純に「考える力が足りない」という話ではありません。
脳が問題へ対応するために、 注意を絞り込んでいる状態 とも考えることができるのです。
では、身体を緩めると何が変わるのか?
今度は逆に、 「身体から脳へ」 という方向から考えてみましょう。
肩や顎の余計な力が抜ける。
呼吸が少しゆっくりになる。
身体の姿勢が楽になる。
身体の状態が変われば、 当然、身体から脳へ送られてくる情報も変わります。
ゆっくりとした呼吸について調べた系統的レビューでは、 心拍変動などの自律神経活動、 中枢神経系の活動、 リラックス感などの心理状態との関連が報告されています。 [4]
また、筋肉を一度緊張させてから緩める 漸進的筋弛緩法についても、 成人のストレスや不安の軽減に有効である可能性が 系統的レビューで示されています。 [5]
「身体を緩めれば悩みが解決する」 という意味ではありません。 身体が変わることで、 脳が情報を処理するための条件も変化する可能性がある ということです。
身体が緩むと「使える情報」が増える
私は、この視点がとても大切だと考えています。
身体を緩める目的は、 頭を空っぽにすることではありません。
もう一度気づける状態をつくる。
例えば、パソコンやスマートフォンへ集中しているとき。
背中が丸まり、 呼吸が浅くなり、 顔や眼をほとんど動かさず、 一点を長時間見続けていることがあります。
こうした状態では、 注意も限られた範囲へ集まりやすくなります。
反対に、
一度立ち上がる。
肩や顎の力を抜く。
ゆっくり息を吐く。
顔を上げて周囲を見る。
足の裏や床との接触を感じる。
そうすると、 身体から入る感覚情報も、 外から入ってくる情報も変わります。
それまで 「これしかない」 と思っていたところから、
「こういう考え方もあるかもしれない」
と別の可能性に気づくことがあります。
つまり、身体を緩めることで 「正しい答え」が突然分かるのではありません。
判断するときに使える情報の種類が増える。
これが「身体を緩めると思考も緩む」という現象を考える、 一つの重要な視点です。
頭がいっぱいになったら、まず身体を確認してみる
考えがまとまらないときほど、 私たちはさらに頭で考えようとします。
そんなときには一度、 「今、身体はどうなっているだろう?」 と確認してみてください。
- 肩が上がっていないか
- 顎を噛みしめていないか
- 呼吸を止めていないか
- 背中や胸まわりが固まっていないか
- 目が一点だけを見続けていないか
そして少し身体を動かし、 一度息を吐いて、 少し遠くや周囲を見る。
頭を変えようとする前に、 身体の状態を少し変えてみる。
それだけでも、 同じ問題を違った角度から捉えられることがあります。
身体を整えることは、思考に余白をつくること
脳と身体は切り離されたものではありません。
身体から脳へ。
脳から身体へ。
私たちは常に、 この循環の中で考え、感じ、行動しています。
身体を整えることは、 肩こりや腰痛を楽にするためだけのものではありません。
自分の身体の感覚に気づき、 周囲から入ってくる情報を受け取り、 もう一度、自分で考え、選択する。
そんな 「思考の余白」 をつくることにも、 身体は関わっているのです。
よくある質問
Q. 身体を緩めるだけで、考えすぎはなくなりますか?
Q. 考えすぎと自律神経は関係していますか?
Q. 身体が緊張すると頭が働きにくくなるのはなぜですか?
Q. 頭がいっぱいになったときは何をすればいいですか?
参考文献
- Critchley HD, Eccles J, Garfinkel SN. Interaction between cognition, emotion, and the autonomic nervous system. Handbook of Clinical Neurology. 2013;117:59-77. doi:10.1016/B978-0-444-53491-0.00006-7.
- Arnsten AFT. Stress signalling pathways that impair prefrontal cortex structure and function. Nature Reviews Neuroscience. 2009;10(6):410-422. doi:10.1038/nrn2648.
- Shields GS, Sazma MA, Yonelinas AP. The effects of acute stress on core executive functions: A meta-analysis and comparison with cortisol. Neuroscience & Biobehavioral Reviews. 2016;68:651-668. doi:10.1016/j.neubiorev.2016.06.038.
- Zaccaro A, Piarulli A, Laurino M, et al. How Breath-Control Can Change Your Life: A Systematic Review on Psycho-Physiological Correlates of Slow Breathing. Frontiers in Human Neuroscience. 2018;12:353. doi:10.3389/fnhum.2018.00353.
- Khir SM, Wan Mohd Yunus WMA, Mahmud N, et al. Efficacy of Progressive Muscle Relaxation in Adults for Stress, Anxiety, and Depression: A Systematic Review. Psychology Research and Behavior Management. 2024;17:345-365. doi:10.2147/PRBM.S437277.
